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系統(ルーツ)がすべてを決める世界だからこそ、不自由なことがある。
ここで定められた戸籍上では、私はただの孤児のままだ。
家族の一員でもなければ、村人でさえない。
ここに確かにいるのに、紙の上では存在していないことになっている。
どんなフォローをしてもそれは確かな真実で、そこに私という存在を認めさせなくては人としての幸せの証拠を、何一つ手に出来ない。
だから、きっかけはどうあれいつかは行こうと考えていた。
「すぐに帰ってくるよ」
大神殿のあるの首都ランバートまではだいたい一ヶ月ほどの行程だという。
すぐに帰れる距離でないのは、ここにいる全員が承知していることではあった。
「すぐに帰ってくるから」
それでも、言わずにはいられなかった。
気休めでも。
そして、もしも本当に自分が女神の眷属であったら、帰れないのだとしても。
「帰ったら、私を本当の意味でのここのうちの子にしてください」
視界がじわりと歪んだ気がして、隠すようにマリベルを抱きしめる。
本当の親を知らないけれど、もしもそんな人がいたとしてもやはり私はマリベルの娘になりたい。
それぐらい大好きな人だから、行かなければならないのだ。
マリベルは私の腕の中で、何度も何度も頷いてくれた。
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