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「なあ、オーサー。
アディはなんでわしにはあそこまで懐いてくれねぇんだろうな」
オーサーのいる方向から、低いしゃがれた男の声がする。
「僕が知るわけないよ、父さん」
つまらなそうに返しているのはオーサーだ。
彼らのやりとりは日常的に行われているので、おそらくオーサーも飽きているのだろう。
「うちに来た日から、わしに抱きついてきたことなんざ一度もねぇんだよ。
こっちが両手を広げて待ってても、攻撃しようとしたり、全力で飛び越えようとしたり」
思い返してみると、確かに養父に抱きついたことは一度も無い。
だが、物心つかない幼児でこの家に迎えられたわけではないし、そんな恥ずかしいことは出来なかったのだ。
それを知っているオーサーが少しだけ笑いながら、返答する。
「下心が見えるんじゃないかな」
「下心なんかあるかよ。
可愛い可愛い一人娘だぜ?」
外野が煩いと顔をあげると、マリベルの優しい眼差しが飛び込んできて、小さく肯く。
私はしかたないなと小さく笑って彼女を離し、オーサーと養父に向き直った。
養父はこれ見よがしに太く毛深く日焼けた両腕を大きく広げている。
マリベルとは対照的にかなり焼けて「黒い」と表現しても支障ないぐらい日焼けた養父は、ウォルフ=バルベーリという。
筋肉質でがっちりとした体格で、オーサーの倍の身長もあるの天辺には岩と見間違い沿うなごつごつした顔が乗っている。
これで、濃い黒茶の髭と同色の髪の毛がなければ間違ってもしかたないと思う私の意見には、マリベルを除いた村人の全員が賛成してくれている。
「わしに抱きついて、お父さんって呼んだら、行ってもいいぞー」
機先を制して言われた言葉に、私は口端と頬を上げて微笑んだ。
見慣れているオーサーも認める極上の笑顔に、養父も私にわかるほど頬を赤く染める。
「村長」
「呼ばなきゃ、村から出さねぇぞ」
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