2#よくいる家族

8/10
前へ
/181ページ
次へ
 後方へ引いた右足に力を込めて、上体を少しずつ前傾にする。  そして、弓の弦に弾かれた矢のように勢いをつけたまま、その大きな腕に突進した。 「うおっ」  強い衝撃を与えたし、うめき声も聴こえたのだけど。  その巨体は揺らぐことなく、しっかりと私を抱きとめた。  撫でる手は私の頭を覆うほど大きい。 「――お父さん」  小さく呼ぶと、少しだけその手は止まり、次いで息が苦しくなるほど強く抱きしめられる。 「母さん、聞いたかっ?聞いたかっ!」 「お父さん、そんなにしたらまたオーサーが怒るわよ~」  あらあらといいながら、平和に制止する様子の浮かぶマリベルに対して、息子のオーサーの方が苛々とした声で父親を呼ぶ。  ついで、身動き一つ出来なかった私は一気に光の元へ連れ出された。  そのままオーサーの背中に隠されるように庇われる。 「加減を考えてよ、父さん。  アディが窒息するじゃないか」 「なんだ、オーサー。  羨ましかったのか?」  そんなんじゃないと言い返すオーサーの背中を見つめながら、深呼吸して息を整える。 「ありがと、オーサー」  顔だけ振り返ったオーサーは、助けたはずの私をも睨みつける。 「アディもアディだよ。  あんなの聞かなくったっていいじゃんかっ」 「なんでオーサーが怒るの」 「怒ってないよっ」  ふいと顔を背けたオーサーはやっぱり怒っている様子で、その肩越しに養父と目線を合わせた私は、二人で声を出さずに笑いあう。 「おまえら、仲良いなぁ。  旅から戻ったら、二人で祝言でもあげるようか?」  これにはオーサーの耳が瞬時に赤くなった。 「と、父さん、何言って」  照れるオーサーは面白いし、かわいいので、私も養父の言葉にのって、恥じらう声で返す。 「からかわないでよ、村長」 「ア、アディまでっ、な何言って。  少しは否定しなよっ」  うろたえたオーサーが私を振り返る前に、できるだけ哀しそうな表情を作っておいたので、合わせた顔はひどく困っていて。 「オーサーは、私じゃ不満?」
/181ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加