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後方へ引いた右足に力を込めて、上体を少しずつ前傾にする。
そして、弓の弦に弾かれた矢のように勢いをつけたまま、その大きな腕に突進した。
「うおっ」
強い衝撃を与えたし、うめき声も聴こえたのだけど。
その巨体は揺らぐことなく、しっかりと私を抱きとめた。
撫でる手は私の頭を覆うほど大きい。
「――お父さん」
小さく呼ぶと、少しだけその手は止まり、次いで息が苦しくなるほど強く抱きしめられる。
「母さん、聞いたかっ?聞いたかっ!」
「お父さん、そんなにしたらまたオーサーが怒るわよ~」
あらあらといいながら、平和に制止する様子の浮かぶマリベルに対して、息子のオーサーの方が苛々とした声で父親を呼ぶ。
ついで、身動き一つ出来なかった私は一気に光の元へ連れ出された。
そのままオーサーの背中に隠されるように庇われる。
「加減を考えてよ、父さん。
アディが窒息するじゃないか」
「なんだ、オーサー。
羨ましかったのか?」
そんなんじゃないと言い返すオーサーの背中を見つめながら、深呼吸して息を整える。
「ありがと、オーサー」
顔だけ振り返ったオーサーは、助けたはずの私をも睨みつける。
「アディもアディだよ。
あんなの聞かなくったっていいじゃんかっ」
「なんでオーサーが怒るの」
「怒ってないよっ」
ふいと顔を背けたオーサーはやっぱり怒っている様子で、その肩越しに養父と目線を合わせた私は、二人で声を出さずに笑いあう。
「おまえら、仲良いなぁ。
旅から戻ったら、二人で祝言でもあげるようか?」
これにはオーサーの耳が瞬時に赤くなった。
「と、父さん、何言って」
照れるオーサーは面白いし、かわいいので、私も養父の言葉にのって、恥じらう声で返す。
「からかわないでよ、村長」
「ア、アディまでっ、な何言って。
少しは否定しなよっ」
うろたえたオーサーが私を振り返る前に、できるだけ哀しそうな表情を作っておいたので、合わせた顔はひどく困っていて。
「オーサーは、私じゃ不満?」
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