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木の床を覆うように青と白でマリベルが編んだ丸じゅうたんが敷かれた部屋の中には、三段重ねの箪笥とシングルベット一つと、木製の小さな机が置いてあるだけで他は何もない。
もともと物に執着する性質ではない私の持ち物は、生活必需品以外は本当に何ももっていないのだ。
壁にかけておいた大きめの黒いショルダーバッグに半袖のシャツ二枚と長袖のシャツ一枚、それからジーンズのパンツを一枚入れて、箪笥の前に置く。
それから、私自身は倒れるようにうつぶせに横たわる。
上を風が通り抜けていくのはマリベルが掃除のために開けたからだろう。
ベッドは窓に沿うように設置してあるのだ。
私は寝返りを打って、薄いタオル地の掛け布団を腹まで引き上げる。
ふわりとバニラ色のカーテンが揺れて、窓の外から爽やかなユーレリアの花の香りと木々に茂る緑の香りを室内へ招き入れる。
ユーレリアは村の近くに群生する薄水色の五枚の花弁を持った小さな花だ。
一枚の花弁は爪の先ほどで、単体で調合するとちょっとした傷薬になる。
薄荷系の爽やかな香りになるのはそのせいもあるのだろう。
「女神の眷属、か」
神官に言われた言葉を思い出し、独り言が口をつく。
何度も言われたことだし、今更のことだ。
何も、何も思うことなどないはずなのに、不安が胸いっぱいに広がってゆく。
片腕で昼の光を遮り、同時に気持ちにも薄い幕を引いて、私は浅い眠りにつくことにした。
眠りは意外とすぐに訪れ、私は穏やかな午睡をただ、感じる。
これから先、旅から戻るまでは今のような休息をとることができないだろう。
意識的に私は深い眠りに落ちていたから、普段ならしている警戒を少しだけ怠っていた。
だから、さわさわと緩やかなウェーブを描くカーテンの向こう、私の様子を窓の外――離れた木の上から覗く者があったことなど気が付くはずもなく。
温かな日和の午後の風に包まれている私も、外で騒いでいるオーサーや養父母も、誰も旅が全ての始まりで終わりであることなど、知るよしもなかった。
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