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高く青い空を薄雲が駆け足で辺りを立ち去ってゆくのを、私は足下の翳りで眺める。
別に好きで空を見上げずに眺めているわけじゃない。
通り過ぎる風のさざめきさえも頭痛の種になる原因は十中八九、昨夜の送別会のせいだ。
これが最後とばかりに皆が勧めるのを断りきれず、かなりの量の酒を飲んでしまった。
一応、半年前に成人――国の定めた年齢は十五――しているとはいえ、皆もう少し加減してほしいものだ。
いくら私がまったく酔う素振りを見せなかったからって、ほとんどが三十過ぎの大人だって言うのに容赦ない。
「アディ、ほら薬」
マリベルに手渡された木製の椀の縁いっぱいに入った、白く濁る液体を一気に飲み干す。
湯気が出ていたから熱さは覚悟していたものの、顔を一瞬でしかめさせるこの苦みだけはどうしようもない。
「苦~っ」
涙目で私が椀を返すと、マリベルは苦笑しながら受け取る。
今日もいつもの白いシャツに赤いチェックのロングスカートだが、髪は頭の上の方に団子状にまとめてある。
「外では昨日みたいに飲んじゃだめよ」
「あんなんここでしかやらないよ~」
いくら酔わないといっても自分で気が付かずに酔っていたりしたら、もしもの場合に対応できないという自覚ぐらいある。
「食べ物と飲み水には気をつけるのよ。
拾い食いなんてしちゃだめだからねっ」
「大丈夫だよ、母さん。
僕がちゃんと見てるから」
「……マリ母さんも、オーサーも、私をなんだと思って……っ」
反論しようにもごうごうと音が渦巻いて、キリキリと頭を締め上げる痛みと共に私を苛む。
その状況の最中、この悪酔いの最大の原因が私の肩に大きな手をかけた。
「わしの勝ちだな」
顧みなくてもわかる低いガラガラ笑う声を視線だけ向けて睨みつける。
「馬鹿いわないで。
先に酔い潰れたのは村長でしょう」
「チッ、覚えていたか」
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