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舌打ちするウォルフが目の前に差し出した小さな牛皮の袋を受け取り、中身を確認してから懐に捩込む。
中身は旅に必要な最低限の路銀として、百オール程の小銭がじゃらりと詰まっていた。
持っている小遣い程度では足りなかったし、金を持っているわけでもない。
何より遠慮するような間柄でもないので、素直に受け取った次第だ。
オーサーには後で話せばいいだろう。
「帰ったらまたやるぞ」
大きな手が頭を覆い、揺らさないようにぐるりと撫でる。
「……死ぬんじゃねぇぞ」
「誰に育てられたと思ってんのよ」
「けっ、てめぇで育ったんだろうがよっ」
頭の上の重さがなくなったと思うと同時に、強く背中を叩かれ、一瞬息がつまった。
「っ、」
抗議しようと振り返った私は村長の顔をまともに見上げて、そのまま口を閉じる。
「オーサーを頼んだぜ。
あいつを、死なせんじゃねぇ」
それは人の親であれば誰もが願うこと。
信用しているとかいないとか、そういうものじゃなくて。
いつになく真剣な顔で、願う声は真っ直ぐに心に響いて、少しだけオーサーを羨み、少しだけ迷った。
本当にオーサーを、私のわがままでつれていっていいかどうか。
「それから、」
迷う私をまっすぐに見たウォルフは、不意に表情を崩して柔らかく笑った。
「おまえも、な。
ちゃんとここに帰ってくるんだぜ」
理由とか何も無く、ここが帰る場所だと繰り返してくれる養父の優しさに、溢れそうな涙を隠し堪えて。
私はただ強く深くうなづいた。
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