3#よくある見送り

4/5
前へ
/181ページ
次へ
 養父母に見送られて村から出る時に、私とオーサーは遠くから投げつけられた餞別をそれぞれに手にした。  手にしたとたんにそれはばさりと開き、ひらひらとした裾の長い女物のスカートであることを風に流して示してくれる。  一応落とさないように私もオーサーも手にしていたが、投げられた方向から走ってくる男を見ずに二人で顔を見合わせて、同時に息を吐く。 「なんなの、ヨシュおじさん」 「何って餞別だろ」  私達の前で立ち止まったヨシュは、ウォルフと並ぶと頭一つ分小さく見える。 「餞別って、これが?」 「どうせその服の替え位しかもってねぇんだろ。  女物がひとつあると便利なんだぜ」  何がどう便利なのか詳しく聞いても、碌な答えが返ってこないことは経験からよくわかっている。  私は一歩進み出るオーサーに自分のスカートを手渡す。  慣れている相棒はそれを自分のと合わせてヨシュに突っ返す。 「な、ん、で、よりにもよって、こんなもの渡すんだよっ」 「黙って受け取れって、オーちゃん」 「ちゃんって、呼ぶなっ!」  ヨシュに返してくれるのはいいんだけど、頭にオーサーの少し高めのトーンは響く。  隣に来たマリベルに素直に寄りかかって甘えておく。 「俺らだって、ここに来る前に旅してて、かなり楽になったんだぜ。  な、村長」  深くウォルフが肯くのを見て、オーサーと二人で顔を見合わせ、同時にマリベルに視線を送る。  マリベルは少し困ったように微笑み、視線を逸らした。  かすかに青ざめているようにも見える。 「あれは、楽というか」 「……お前は楽しんでただけだろ、ヨシュ」  ひどく不機嫌な顔でウォルフがヨシュを睨みつけると、彼は肩を小さくすくめた。 「ま、気ぃつけて行ってこいよ」  スカートを今度はウォルフに押し付け、じゃあなとあっさり背を向けてしまったヨシュを見送る私達に、彼の姿が見えなくなってからマリベルがそっと教えてくれる。 「相変わらず、別れが苦手なのね」
/181ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加