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養父母に見送られて村から出る時に、私とオーサーは遠くから投げつけられた餞別をそれぞれに手にした。
手にしたとたんにそれはばさりと開き、ひらひらとした裾の長い女物のスカートであることを風に流して示してくれる。
一応落とさないように私もオーサーも手にしていたが、投げられた方向から走ってくる男を見ずに二人で顔を見合わせて、同時に息を吐く。
「なんなの、ヨシュおじさん」
「何って餞別だろ」
私達の前で立ち止まったヨシュは、ウォルフと並ぶと頭一つ分小さく見える。
「餞別って、これが?」
「どうせその服の替え位しかもってねぇんだろ。
女物がひとつあると便利なんだぜ」
何がどう便利なのか詳しく聞いても、碌な答えが返ってこないことは経験からよくわかっている。
私は一歩進み出るオーサーに自分のスカートを手渡す。
慣れている相棒はそれを自分のと合わせてヨシュに突っ返す。
「な、ん、で、よりにもよって、こんなもの渡すんだよっ」
「黙って受け取れって、オーちゃん」
「ちゃんって、呼ぶなっ!」
ヨシュに返してくれるのはいいんだけど、頭にオーサーの少し高めのトーンは響く。
隣に来たマリベルに素直に寄りかかって甘えておく。
「俺らだって、ここに来る前に旅してて、かなり楽になったんだぜ。
な、村長」
深くウォルフが肯くのを見て、オーサーと二人で顔を見合わせ、同時にマリベルに視線を送る。
マリベルは少し困ったように微笑み、視線を逸らした。
かすかに青ざめているようにも見える。
「あれは、楽というか」
「……お前は楽しんでただけだろ、ヨシュ」
ひどく不機嫌な顔でウォルフがヨシュを睨みつけると、彼は肩を小さくすくめた。
「ま、気ぃつけて行ってこいよ」
スカートを今度はウォルフに押し付け、じゃあなとあっさり背を向けてしまったヨシュを見送る私達に、彼の姿が見えなくなってからマリベルがそっと教えてくれる。
「相変わらず、別れが苦手なのね」
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