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近くの町の名はミゼットといい、主に宿場町として栄えている場所だ。
私たちの住むルクレシア公国の外れに位置し、直ぐ北西にはヨンフェンという関所がある。
反対の東南東の道へ行けば、ルクレシア最大の都市イネスがあり、その更に南東の小砂漠を越えると大神殿を有する首都ランバートだ。
ミゼットからは馬を三頭も乗り継げば約一週間で着くらしいが、そこまでの金などないし、徒歩でも大人で一ヶ月程度で着くらしい。
イネスの滞在を考慮しなければいけないのはあまり気乗りしないが、途中で金を稼ぐことが出来ればいいかもしれないし、私は最初から徒歩で行くつもりだ。
ともかくミゼットに行かなければ、大した旅支度も整わない。
進まなければ始まらないのだ。
「アディ、」
気遣って私の名前を呼ぶオーサーの声が耳に届くと同時に、二人の間を切り裂く風の音が通り抜ける。
次には、目の前に薄汚れた灰白色の大きな布が視界いっぱいに広がっていた。
鈍い金属の音が深く脳髄に響いて、私はまた硬く両目を閉じて、頭を両手で押さえる。
その音はただ一回で終わることはなく、火花でも散っているんじゃないかという勢いでガツガツとぶつかり合い、その都度目を開こうとした私にダメージを与え続ける。
痛みで視界を滲ませながら、とにかく状況を把握するために私は音のほうへ目を向けた。
攻めているのは黒装束に身を包んだ金に赤が混じる瞳の青年で、歳はたぶん若いだろうということぐらいしかわからないが、見ただけで痩身というのはわかる。
両手に鈍色の湾曲した刃物――青龍刀のようなものをもっている。
こちらに背を向けた灰白色のマントをまとった男は、身に着けている白っぽい肩当のせいか、かなり大柄に見える。
ウォルフとヨシュの中間ぐらいの体格かもしれない。
歳はヨシュよりは少し若いだろうか。
あの神官よりは年上に見えて、大体三十前後に見える。
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