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彼はディと名乗り、自分のことをフリーの傭兵だと言った。
「変なじーさんに言われて暇つぶしにきたが、まさか刻龍なんぞに襲われるガキがうろついてるとはな」
あれからずっと付いてくる男は、ベラベラと引っ切りなしに喋っている。
自己紹介も頼んでもいないのに、勝手にそうして喋ったのだ。
「刻龍?」
「知らねェか?
世界最強にして最悪の犯罪組織――」
「相手にするんじゃない、オーサー」
オーサーが持たされていた二日酔いの薬で、ようやく頭痛から開放された私だったが、不機嫌に幼なじみへと注意を促す。
「あんたも付いてこないで」
「そういうなよ、アディちゃん」
言われる度に自分でも顔が火照っている気がして、私は少しだけ歩く足を速める。
オーサーは着かず離れずといった具合で、一定の距離を保ってついてきているから、気が付いているかもしれない。
村で、というよりマリベルによって、人に愛されることにも可愛がられることにも慣れたし、こういう褒め言葉なんて慣れていると私は自分で思っていた。
だけど、初対面の相手に言われて、こんなに落ち着かない気分になるとは思っても見なかった。
これじゃ、全然慣れたなんていえない。
「言っておくけど、認めたわけじゃないよ?」
得体のしれなさは変わらない。
だけど、何故だろうか。
ディからは無条件に向けられる信頼だけが、私には伝わってくる。
ヨシュとどことなく似ている雰囲気のせいかもしれないな、と私はひっそりと笑みを零していた。
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