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生まれ育った村で、私は自分より五歳ぐらいまで上の歳の者であれば勝てる程度だ。
ミゼットではそれ以上の年齢の者も多くいたというのもあるが、私は勝気な性格で何度か無謀な勝負をしたし、その度にオーサーに助けられている。
「女でそこまで使えりゃ上等だろう」
元々体術の基本として、誰もが一度は習うものだ。
身一つで始められるというのも金のない身としてはありがたいので、王族・貴族以外ではこれを修める者が多いのも事実。
「そうかもしれない。
だけど、外じゃ全然通用しないんじゃないかな。
現にディがいなかったら、私もオーサーもとっくにあの黒い剣術士に殺されてたよ」
そういう意味ではミゼットへ抜ける道を出て、すぐにディが来てくれたのは幸運だ。
それが、ただの気紛れだとしても礼を云うに値するだろう。
でも、どこかで不満に思っている私がその言葉を口にさせてくれない。
じっと目の前の炎を見つめると、内側で揺れる黒い影がふらりと揺らめいた気がした。
「私はこのままじゃ駄目だと思う。
このままじゃ、護りたいものを護れない」
護りたい者は多くない。
オーサーと、マリベルと、村長や村のみんな。
それだけが今の私の大切な仲間で、むしろ私は彼らに守られてきたのだと自覚している。
ずっと――村に来た日からずっと私は守られてきたから、いつか恩を返したいから。
「私は、少ししか世界を知らないけど」
イネスで弱いものが虐げられるのは多く見てきた。
だからこそ、私は強くなりたいと願い、村長やヨシュらに拳闘の手ほどきを受けた。
「何も出来ないかもしれないけど、この拳の届く範囲ぐらいは完璧に護りたい。
そう考えるのはおかしい?」
「おかしかないが、」
薪から一本を手にし、おもむろにディは森の中へ投げ込んだ。
それは奥に届くことなく、落下地点から犬の悲鳴のようなものを私達に届ける。
「少し違うな。
あんたが護りたいと思うように、他のやつだってあんたを護りたいかもしれない。
そうなると、護られるのは迷惑だろうし、あんたが傷つくのは困る」
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