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オーサーが焚火に水をかけて消し、さりげなく私の近くへ移動したディが大剣を抜き放つ。
私は正直、月の光を反射する刃なんて、過去の事件から冷たくて怖いものだと思っていた。
だけどディの手の中の剣は、理由はわからないけれど、イネスの美術館で見かけた絵画の聖剣のように、女神の清い光を放っている気がする。
「あんたには生きててもらわなきゃ困るんだ、アデュラリア」
小さな呟きを残し、ディは現れた狼の群れに惑い無く切り込んでいった。
いくらここが少し開けた場所だとは云え、その剣の大きさではすぐに枝葉に引っかかるはずなのに、不思議とディの剣先は鈍らない。
何度か見ていたとはいえ、やはりこの人は強いなと私は眉を顰めていた。
「……ディは、アディを知ってる……?」
ディと出会ってから私は名乗っていないし、オーサーも愛称でしか呼んでいない。
それなのに「アデュラリア」と呼ぶには、あらかじめ私のことを知っていなくてはならないはずだ。
「みたい、ね」
残された私も即時に飛び掛ってきた狼に、左足で蹴りの一撃を食らわせる。
隣でオーサーも右のポケットから少しよれたり黄ばんだりしている長方形の紙の束を取り出し、一枚を左手で握ったまま掲げる。
「――旋風――!」
オーサーの言葉に呼応し、その手に握る紙が渦巻く風に姿を変えて、向かってきていた二匹を吹き飛ばした。
それを横目に見ながら、口元に自然と笑みが浮かぶ。
これは、余裕、なのだろうか。
自分でもよくわからない。
「ま、強けりゃ今はそれでいいか」
少なくとも考える余裕を与えてはくれないだろうなと、闇に光る狼の赤い瞳の数を見て、私は体勢を低く構えた。
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