6#よくある道具

2/5
前へ
/181ページ
次へ
 緑深い森に、上方から差し込む薄明かりが夜明けを報せる。  さながら命を吹き込まれ、命の輝きを求めだす自然の様相を尻目に、私たちはまだ狼と対峙していた。  戦闘が始まったのが月が傾きかけた頃と考えると、相当な時間が経過しているのがわかる。  だが、敵の数は減るどころか未だに増えるばかりだ。  飛び掛ってくる狼はオーサーが吹き飛ばしてくれて、その他のほとんどをディが薙ぎ払ってくれるおかげで、私は戦う必要もない。  だが、大人しく守られるだけなら、私だって最初から村を出ようとなんてしない。  私の手元の小さな武器が大きな音を立て、その先から白煙を立ち上らせる。 「頼むから、ちゃんと狙って撃ってよね、アディ」  自分の目の前に黒く穿った痕が残ると、オーサーが呆れ声を返してきた。 「うるさいわねっ!  ちゃんと狙ってるわよっ」  私が手にしているのは、掌に収まるサイズの小さな黒い拳銃だ。  入っているのは実弾ではなく、ただの石。  爪先の半分にも満たない一ミリに満たない砂利を詰めて、弾の代わりとしている。  理由は簡単で、それ以外に詰めるものがないからだ。  一応神殿でも保管されている女神の遺品の一つではあるが、一般に普及しているさして珍しくもない品物だ。  ただし、絶対的数量は限られているので高価と言えなくも無い。  だが、世界中に数千個はあるといわれるほどに溢れている品に、珍しいも何もないだろう。 「なんでよりによって、そんなもんを。  ――……うぉっ!  こっちに向けるんじゃねぇっ」  私が使うのは一応石ではあるが、神官魔法が扱えるマリベルに頼んで硬化と潤滑コーティングを施してある。  神官魔法は魔法使いが使うものとは別種で、魔法使いが世界に流れる力を使うとすれば、神官のそれは女神に頼んで行うものらしい。  説明は受けているが私にはよくわからないし、だいたい七面倒な説明を全部聞き終わる前にいつも寝てしまう。
/181ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加