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緑深い森に、上方から差し込む薄明かりが夜明けを報せる。
さながら命を吹き込まれ、命の輝きを求めだす自然の様相を尻目に、私たちはまだ狼と対峙していた。
戦闘が始まったのが月が傾きかけた頃と考えると、相当な時間が経過しているのがわかる。
だが、敵の数は減るどころか未だに増えるばかりだ。
飛び掛ってくる狼はオーサーが吹き飛ばしてくれて、その他のほとんどをディが薙ぎ払ってくれるおかげで、私は戦う必要もない。
だが、大人しく守られるだけなら、私だって最初から村を出ようとなんてしない。
私の手元の小さな武器が大きな音を立て、その先から白煙を立ち上らせる。
「頼むから、ちゃんと狙って撃ってよね、アディ」
自分の目の前に黒く穿った痕が残ると、オーサーが呆れ声を返してきた。
「うるさいわねっ!
ちゃんと狙ってるわよっ」
私が手にしているのは、掌に収まるサイズの小さな黒い拳銃だ。
入っているのは実弾ではなく、ただの石。
爪先の半分にも満たない一ミリに満たない砂利を詰めて、弾の代わりとしている。
理由は簡単で、それ以外に詰めるものがないからだ。
一応神殿でも保管されている女神の遺品の一つではあるが、一般に普及しているさして珍しくもない品物だ。
ただし、絶対的数量は限られているので高価と言えなくも無い。
だが、世界中に数千個はあるといわれるほどに溢れている品に、珍しいも何もないだろう。
「なんでよりによって、そんなもんを。
――……うぉっ!
こっちに向けるんじゃねぇっ」
私が使うのは一応石ではあるが、神官魔法が扱えるマリベルに頼んで硬化と潤滑コーティングを施してある。
神官魔法は魔法使いが使うものとは別種で、魔法使いが世界に流れる力を使うとすれば、神官のそれは女神に頼んで行うものらしい。
説明は受けているが私にはよくわからないし、だいたい七面倒な説明を全部聞き終わる前にいつも寝てしまう。
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