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透き通る肌には緑の葉っぱを雲の糸で縫い合わせて朝露で洗う、ワンピースみたいな服を着て喚く小さな少年――人は彼らを妖精と呼ぶ。
「あんたみたいなちんまいのに頼ってばかりいられないからでしょ。
頼むわよ、ファラ」
頼りにしているのだと言うと、不満げな態度を見せながらもファラは私の手にする拳銃の隣に葉っぱごとふわりと浮かび、小さな両腕を高く差し上げる。
「こんなに苦労しなくても、僕が本気になればこんなやつら」
ただそれだけでファラの周囲から風が生まれ、次には私の背後から吹く追い風に変わり、私の黒髪を背中から前へと流した。
「狙いはあの木の上の笛よ」
「話を聞いてください、アディっ」
「聞いてる聞いてる」
私のその様子に、ディが目をむく。
「てっめぇっ、こっちに向けんじゃねぇっつってんだろーがっ!」
それもそのはず、私の狙いの中間点ではディが戦闘中だ。
「ぎゃあぎゃあうるさいわね。
一流の剣術士ってんなら避けて見せなさいよっ」
「無茶いうなっ」
文句を言いながらもディが相手の一撃を強引にはね除け、急いで木陰に身を隠したのを私は確認する。
視線をファラに向けると、小さな妖精は狙いの先から視線を外さずに告げた。
「いくよ、アディ」
「当てなきゃ二度と呼ばないからね、ファラ」
躊躇いなく、私は引き金を引く。
爆音を立てて吹っ飛んでいった鉛の弾丸は、狙い過たずに黒衣の男の笛だけを砕いた。
さきほどまで狙いを外しまくっていた私が、である。
遠当てが苦手な私でも当てることができるのは、ファラのおかげだ。
風から生まれたというファラには、小さいながらもそうできる力がある。
「有難う、ファラ」
目の前で消える姿を見ながら、私は感謝の言葉をファラに向けた。
ファラはまだ生まれて間もない幼い妖精だから、長く人間界にはいられないのだ。
笛がなくなるやいなや、襲撃者らはすぐに姿を消してくれた。
「で……できるなら、次からはそうしてくれ……っ」
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