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確かに神官の言うように、私のように成人まで系統(ルーツ)を知らないものは稀少である。
成人前であれば、ある程度の町以上には戦争で親を失ったり、捨てられたりして孤児になっている者もいるし、そういった者は知らない故に系統診断(ルーティスト)を受けることが無い。
だが、ある程度――物心がつくようになれば、自分の足で町の小さな神殿にでも行けば受けることはできる。
系統診断(ルーティスト)は基本的に無償で受けられるのだから。
「アデュラリアさんは、なぜ今までに系統診断(ルーティスト)を受けていないのですか?」
孤児だったから、とかそれぐらいは予想がつくだろう。
私はこの村から少し離れたイネスという街で生まれ、八歳の時にマリベルに連れられて、この村で暮らすようになった。
それまでに神殿に行ったことがなかったわけでもなく、系統診断(ルーティスト)を受けたことが無かったわけでもない。
だが、どの神官も系統診断(ルーティスト)に失敗し、人によっては修行の旅に出てしまったものもいるらしい。
「忘れてたのよ」
だけど、それをこの神官に言う必要も無かったし、実際あまり思い出したくも無いことばかりだ。
大陸の中でもこの国は大神殿を有しているだけに殊更に女神信仰者が多い。
そして、そういう場所特有なのかどうかは知らないが、ひとつの伝説が残っているのだ。
女神の眷属
そは至高にして、至宝の恵み
手にし者らに全てを与えん
それを言ったのが誰だとか、そういったことはどんな文献にも残されていない。
だが、誰がいったか知れない言葉が伝説となって残っているおかげで、私は何度か殺されかけた。
その理由は今はまだ語りたくない。
目を閉じれば思い出す赤黒い闇を無理やりに記憶の奥へと封じなおし、口元に緩い笑みを浮かべる。
「帰ろうか、オーサー。
わからないんじゃ、時間の無駄だしね」
私はオーサーの自分よりも一回り大きくて、少し骨ばった左手を右手で掴み、この神殿の出口へと足を向けた。
その足が数歩もいかないうちに、神官の少し焦ったような声がかかる。
「あの、アデュラリア、様っ」
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