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「そんなことないでしょ。
私、知ってるのよ。
あんた、ジョルジュさんに教わってたでしょ」
ジョルジュというのは村にいる札使いで、自分で書いた札を使うことができる数少ない札士を指す。
あの人の場合は魔法使いが書いた札を発動させられないという欠点もあるわけだから、純粋に札使いといっていいのかどうかも私にはわからない。
「教わってもそう簡単に書けるようになるわけないだろ。
あれも一種の能力なんだから」
とにかく私に言えるのは、札士も札使いも面倒な戦い方だということだ。
「その点、私を見なさいよ。
魔法力なんかなくたって、なんとかなるもんなのよ」
「……いや、ないんじゃないでしょ。
アディの場合は」
オーサーと札士についての話をしている間に、私たちは人ごみを抜けて大通りを少し離れたミゼットの近郊につく。
街中の活気と違って、この辺りは案外静かなものだ。
飲み屋も多いが、主な宿屋もこの辺りに集中しているため、夕方を過ぎないとこの辺りは穏やかなままだ。
「ここまでくればもういいわね」
その宿の多い通りまで来て立ち止まった私は、くるりとディを振り返った。
オーサーも同じくディを振り返る。
「私たちはこれから宿に泊まるけど、ディはどうするの?」
「お、気にしてくれるなんて優しいー」
「いっとくけど、宿代は出さないわよ。
子供にたかるなんてみっともない真似をするとは思わないけど」
辛辣な私の一言は聞こえていないのか、ディは人の悪い笑みを浮かべたままだ。
不気味なことこの上ないが、悪意が感じられないのはいっそ不思議である。
そう、不思議なのだ。
これだけ一緒にいてくれるのに何故か不快じゃない。
村で慣れている大人たちならともかく、こんな見ず知らずの他人で、こんなに心を許してしまっている自分が不思議でならない。
引力とか運命とか、そういう私が信じたくないものを信じてしまいそうになる。
私がもう一言を言おうと口を開いたタイミングで、隣を数台の馬車が大きな音を立てて、とても急いだ様子で通り過ぎてゆく。
大通りほどに広くはない道であることだしと、私たちは一時会話を中断し、道の端に避けた。
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