1#よくある幕開け

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 歩きながら、私は一度解いた髪を、腕につけていた紐で一つに括り直す。  そうするとますます男にしか見えなくなると何度かからかわれたが、今日みたいに「おめかししてオーサーとデートか」なんてからかわれ方をするよりはマシだ。  オーサーと私はそんな甘っちょろい関係ではない。 「アディ、短気はだめだって。  大神殿までは日帰りじゃいけないし、途中には猛獣もいるっていうし、盗賊だっているっていうし。  それに母さんたちだって、反対するよっ」  吃驚して立ち止まっていたのだが、慌てて追い付いて来たオーサーの手が私の肩にかかるのを避けつつ、よろけた彼の首を腕の間に抱えこみ、そのまま歩く。 「うわわっ」 「猛獣は二人で何度も倒してるし、盗賊だって二人ならなんとかなるよ。  母さんたちの説得だって、お姉ちゃんに任せなさいって。  そんなことより、」  腕の間でじたばた暴れるオーサーを笑いながら立ち止まり、頭の上から問い掛ける。 「オーサーは一緒に行くの?  ここに残るの?」  これは卑怯な問いだ。  オーサーは私と出会ってから、逆らった例しがない。  だから私は、彼が、オーサーが私の予想通りの答えを返すと知っている。 「……行くに決まってるよ」  至極憮然としたオーサーの返答に満足して、ようやく私は彼を開放したのだった。  慌てて離れるオーサーは少しだけ耳を赤くしてて、それが照れているのだと知っていて、私はからかうように笑う。 「何、赤くなってんの」 「赤くなんかない」  そう言って顔を背けても、ますます耳は赤くなるばかり。 「なによー、昔は一緒にお風呂まで入ってあげたのに、今更私のこと意識しちゃってるっ?」 「アディ!」 「あははははっ」  風を切るようにオーサーの先に立って、私は走る。  少しだけ私の顔も火照っているのに気がつかないオーサーは、今度は怒って、顔を赤くして追いかけてくる。  昔から変わらない、からかいがいのあるオーサーは、私にとって絶対に裏切らない大切な弟だ。  だが、オーサーは真実を知っても、私の味方でいてくれるだろうか。  かすかによぎる不安を振り払い、私はさらに走る速度を上げて、笑い声を高くした。
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