私の咲君

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「奥村咲です。よろしくお願いします」 二年一組の教室内。 咲は結局何も思いつかず、ただ短く挨拶しただけになった。 頭の中ではグルグルと先程の紙が舞い踊っている。 “私の咲君”とは一体何なのだろうか。 自分は誰かのものになった覚えはない。 「おーい。奥村、聞いてるか?席は氷野の後ろだぞ。」 担任の声がしてハッとする。 またぼんやりしてしまったようだ。 氷野とは優希の名字のことだ。 咲は言われた通り、彼の後ろの席に座る。 すると、優希が振り返って満面の笑顔をくれた。 それに答えて、咲も優希に向かって微笑んだ。 クラス中が何とも言えぬ癒し空間に包まれる。 「天使が増えた」 誰かがボソリと呟いた。 自分が天使かどうかは知らないが、言葉の様子から、優希のアイドルっぷりは相変わらずらしい。 中学の時から、その抜群の可愛さにより、彼は皆の注目の的だった。 サインでも貰っとこうかな。 HR中、咲はそんな事を考えていた。
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