第三章

5/10
前へ
/24ページ
次へ
     「……あれ、」  二人の前に自然と現れるふりをする。あくまでも偶然ばったりと遇ったように。  明日拓は確認する様にわざとらしく青年の顔を覗き込んだ。宵闇でよく見えなかったが、端正な顔立ちなのはよくわかった。  瞳が僅かな光に反射して悲しそうに輝いていた。しかしその瞳は誰も寄せ付けまいとするように鋭く尖っていて、同時に虚無と無気力を孕ませている。  明日拓は青年の不思議な雰囲気に呑まれそうになったが寸前で我に帰り、流暢にありもしない事を語り出した。 「拓海でしょう。…何年振りかな、高校卒業してから音信不通で…何よりちゃんと生きてて嬉しいよ、」  自然と見せ掛けながら、明日拓はその時だけ俳優になりきる。途中驚いたように目を見開く青年と目が合い、明日拓は警官に気付かれないように片目を閉じて青年に合図を送った。     
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

62人が本棚に入れています
本棚に追加