第三章

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      明日拓は焦りを隠しながらめげずに彼に言う。 「早く帰るべきです、一人暮らしをしているならともかく、両親と一緒に住んでいるなら、今頃心配しているでしょう、」  彼はそれを聞いた瞬間明日拓をひたすら睨んだ。そこには憎悪がある。それが自分に向けられているのかは知らない。ただ、この場には明日拓しかいなかったし、此方を睨んでいるのだから、それなりに失礼な事を言った事は確信しなければならないようだった。  明日拓は悩んだ。もう夕日はすっかり傾いて、真っ暗だ。  悩んだ末、彼の失礼にあたらない様な結論を、疲れた頭で出す。 「取り敢えず、僕はもう自分の家へ帰ります。貴方も好きにすればいい。生憎僕は一人暮らしだから、貴方が僕の家へ来ても何の問題もありません。もし貴方が、…どうしても家へ帰りたくない理由があるのならば、僕は貴方を自宅へ留めておく事が出来る。ついてくるのなら案内しましょう。」  そうして明日拓は歩き出した。後ろから自分のもので無い誰かの足音が聞こえてきた。     
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