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「…で、なに」
いつまで経っても返答がない。もう一度同じ言葉で問えば、苦笑する気配。空から視線を奴に移す。やっぱり、苦笑。俺を見つめる目が妙に温かくて首筋が痒くなる。
「…なに」
「理由がないと、会えないのかなぁと思って」
「………あ?」
予想外の台詞に一瞬、寒さを忘れる。思わず出てしまった間抜けな声に、奴はまた、苦笑した。
さっきから、お前。その顔、なんか変だ。てか、むかつく。
「なんだお前、いきなり」
「気持ち悪い?」
「気持ち悪い」
「早いな」
「だって、事実だ」
本当に、気持ち悪くて調子が狂う。女々しくて、しつこくて、いつまでもうじうじ悩んでるような奴だけど、今日のお前、おかしい。
風が吹く。冷たい空気が肌に直接ぶつかって、ぞくぞくと寒気が背中を駆け登る。
「…俺さ、」
奴の手が、膝の上で落ち着きなく動く。徐々に視線を上げてゆくと、困ったような微笑みが待っていた。
情けなく下がった眉を、訝しげに眺める。
「俺、お前のこと、愛してるみたいだ」
時間が、止まった。いや違う、止まったのは、俺。そして、止めたのは、奴。真摯な眼差しが、嘘くさい。そんなことを言ったら、お前は怒る?それとも、傷付く?
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