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奴は言う「お前が好きだ」
俺は言う「死ね」
目の前のこいつはいつも真正面から俺に愛を叫ぶ。好きだ、とか。愛してる、だとか。毎日飽きもせずに言う。時には唾を飛ばしながら。時には手汗びっしょりな手で俺の手を握りながら。そして稀に俺を無理矢理に抱きしめながら。
勿論すべて全力で跳ね退ける。とどめの言葉も忘れない「死ね。お前など死んでしまえ」
そうするとこいつはへらへらと緩みきった顔で笑うのだ。気持ち悪い「死んでしまえ」へらへらへらへら。ああ。気持ち悪い気持ち悪い。
顎を下から拳でがつんと一撃。へらへらへらへら。駄目だこいつ。どうしたって気持ち悪い。白い肌が赤くなる。痛々しい。だけどまだ笑う。へらへらへらへら。何なのお前。
「気持ち悪い。離れろ」
「好きだ、大好きだ」
「俺は嫌いだ。離れろ」
「あっそう。でも俺は好きだ」
「でも俺は嫌いだ。離れろ」
「嫌だ。離さない」
「触んな。離れろ」
不意に腕を掴まれて、その手が汗をかいてるわけでもないのにやけに冷えていて、ひやり。不覚にも心臓が縮み上がる「触んじゃねぇよ」手を振り払うことなど簡単なはずなのに身体が動かない「触んな触んな触んな」気が狂ったように叫んだ。お前ほんとに何なの。なんで、こんな、俺の心、掻き乱すの。
「なぁ、本気だ、俺」
「っ、触んな。離せ」
「ほんとに、ほんと。好き、なんだよ」
ぐい、引き寄せられる。やめろ。なんで、何なの。お前「嫌いだ。死んでしまえ」罵る。幼子をあやすかのように背中を優しく撫でるこいつが気に食わない「触んなって、言ってんだろ」俺の顔は、今きっと醜く歪んでる。やめろ。お願いだから、これ以上、掻き乱すな。
「お前が、好きだ」
「死ね」
「じゃあ一緒に」
何言ってんのお前。呆れて声も出ねぇよ「…っひく、」代わりに漏れた、間抜けな嗚咽。
頬がいやに冷たいと思ったら、俺の涙だった。
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