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灰皿から溢れ出した煙草の吸い殻が、白いテーブルを汚す。まるで虫が這っているようだ。気味の悪さに顔をしかめる。
澄んでいるはずの、冬の空気。この部屋だけが、不自然に澱んでいる。
仄暗い部屋の片隅に、投げ出された青白い足。俯せで床に倒れる様は、まるで死体だ。
実際死んでいるかもしれない。このくそ寒い中、奴は、毛布も何も掛けていない。
「おい、」
剥き出しの首筋に触れる。どくどくと血が確かに流れていることに、安心する。
いかにも億劫だという顔をして振り返る奴は、普段の数倍、不健康な印象を与えた。
「風邪ひくぞ」
「あぁ」
「布団、使っていいから」
「おぉ」
「それとも、風呂でも入るか?」
「んん」
気遣う言葉には、明確な答えが一度も返ってこない。奴はいまだ、床に寝転んだままだ。
試しに手を差し出してみれば、素直に握ってきた。あまりの手の冷たさに、一瞬怯む。引き上げると、人形みたいに簡単に起き上がる。しかし、座る姿はぐにゃりと力無い。
「風呂入れ。手、冷たいぞ」
「あー…」
ゆらゆらと身体が動く。握ったままの手だけは、不思議と揺るがない。
俺の手から徐々に熱が奪われてゆくのが分かる。大して温かくもない俺の手は、すぐに奴と変わらない温度になる。
「…なぁ、」
不意にしっかりとした声で呼ばれて、腕を強く引かれる。油断していた身体は簡単にバランスを崩して、床に膝をつく。
がつん、という鈍い音。その痛みに顔をしかめる間もなく、唇が塞がれる。この部屋には不釣り合いな唾液の熱さと、ほろ苦い煙草の味に、脳が痺れる。
「っ、なんだよ」
「そんなことより、さ」
(愛し合おーぜ)
形容し難い緩んだ笑顔でそう言った奴の頬は、いつの間にか人間らしい赤みを帯びていた。
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