ぐらぐら、雨、きみ

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雨が降りそうだ。そう思って空を見上げた瞬間、俺の眼鏡に水がぽたり。ああ雨粒だ。くそ。レンズ濡れたじゃねぇか。舌打ちをする。まるでそれが合図になったかのようにぼたぼたぼたと激しい音を立てて雨が本降り。コンクリートがあっという間に濃く染まる。 取り敢えず走ろうか。いや面倒臭い。俺の周りで忙しなく駆け抜ける奴らを見たら雨に慌てて走ることが馬鹿らしく思えてきた。冷たい。冷たい。レンズが濡れる。雨粒で視界が塞がれる。 「馬鹿、」 咎めるような優しいような声。あれ、この声を俺は知っている。振り向く。ああ。眼鏡はかけてるけど俺と違ってレンズは濡れていない。でも肩が濡れてる。ああ、俺の方に傘を傾けているからか。 ぼんやりと立つ俺の手を痛いくらい強く握り、何も言わずに歩き出す。何故だろう。いつもは振り払う手を、今、俺はひどく求めていた。 (きっと、この冷たい雨が麻痺させたんだ)
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