回転木馬で追い掛けた

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「駄目だって」 お決まりの台詞を言った後、奴は必ず叱られた子供みたいな顔をするんだ。ちらちらと俺の顔色を窺うくらいなら、拒絶しなければいいのに。苛立ちを隠せず舌打ちをする。揺れる肩。益々苛立ちが募る。 「なんで駄目なの。なにが駄目なの」 優しく諭すようにと努めたけれど、声には確かに怒気が含まれている。それを敏感に感じ取っては、奴はまた怯えるのだ。黒目がちな瞳があからさまに泳ぐ。逃げ場なんてないって、諦めろ。そう告げるかの如く、威圧的に肩に手を置いた。 もう優しくしてやろうなんて考えは吹っ飛んだ。素直じゃないお前が悪い。強情なお前が悪い。口の端を吊り上げて冷たく笑えば、今にも泣き出しそうな顔。 「ね、教えてよ。なにが駄目なの?」 「……なにが、って」 「俺はお前が好き。お前も俺が好き。相思相愛、二人は愛し合ってく。ハッピーエンド。これのどこが駄目なの。なにが不満?」 一気にまくし立てる。途中「あぁ」だか「うぅ」だか言葉として成立しない呻きが聞こえたが、一切無視をした。しんとする室内。エアコンの音が低く響く。俺はひたすら奴の目を見て、答えを急かした。 「…ハッピーエンドじゃ、ないでしょ」
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