回転木馬で追い掛けた

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蚊の鳴くような声。しかし沈黙の中ではやけに大きく感じられた。ハッピーエンドじゃ、ない?奴は俯いて顔を見せようとしない。晒されたつむじをまじまじと見つめる。 絶句している俺、怖ず怖ずと顔を上げる奴。態度に反して、瞳は確かな光を取り戻している。やめろよ、そんな強い瞳。 「だって、普通に考えれば分かるじゃん。男と男なんて、やっぱり違うんだよ。隠せば辛いし、おおっぴらにしたって辛いんだ。ハッピーエンドなんかじゃない。幸せにはならない」 最後はもう、涙声だった。ぽたぽたと涙が零れて奴のジーンズに染みが生まれては消えてゆく。俺は何も言えなかった。奴の涙は激しさを増してゆく。 ハッピーエンドなんかじゃない。ハッピーエンドなんかじゃない。ハッピーエンドなんかじゃない。辛い。幸せにはなんない。ハッピーエンドなんかじゃ、ない。 ぐるぐると回る言葉はぜんぶ悲痛な叫びだ。しゃくりあげながら奴は泣いている。俺はそれを見てる。俺は、それを、見てる。何も出来ずに、ただ。 「……でも俺は、お前が好きだ」 ぽつり。独り言のように呟く。俺はお前が好きだ。それじゃ駄目なんだろ?でもお前が好き。 奴が小さく「堂々巡りだ」と言った。ああ、ほんと、その通りだよ。だってハッピーエンドじゃないって分かってるのに、お前は俺が好きなんだろ。 (ぐるぐる回る。俺とお前の好き。だけどそれだけ。その先には、進まない)
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