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忘却の追憶
「…えっ!?」
いきなりパソコンの画面に映ったのは白いワンピースを着た小柄な少女。少女は森の中でただ呆然と立ち尽くしていた。その瞳は僕を見透かしている。
「ぁ………し………く…も……」
少女の唇が微かに動き小さな呟きがスピーカーから漏れだした。僕はじっと画面の向こう側を意識した。
「あな……しのや……ぉ…い…」
呟きが僅かにそして確実に大きくなる。
その少女は両腕を広げながら叫んだ。
「貴方と私の約束を思い出して」
僕は何のことなのかさっぱり分からず、ただ少女を見つめることしかできなかった。
「何故、逢いに来てくれないの? 全ては貴方から始まった物語なのに……」
少女は瞳を伏せて唇を震わせ、透き通った栗色の髪を靡かせる。
僕は震える声で画面越しに聴いてみた、
「君の名前は?」
「…私の名前は……、………」
この少女は僕が知りうる最大で最愛の最悪な名前。
「君は何処に居るの?」
「私は貴方に言われた通りに公園に居るの。それ以外は知らない」
僕は推測した。昨日の資料の中に深い森が映ってあったから。
「木々以外に何か見える?」
「少しだけど花が咲いてる。この花はリコリス。貴方と私の…」
推測は確信へと変わった。学校から歩いて徒歩15分あまり。
「今から君を迎えに行くよ。それが間違いでも」
僕はパソコンを閉じ、生徒会室を後にした。
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