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「かぁ、ズマ君」
呼び掛けられた本人、カズマの動きも止まる。
それからの動きは、全てがスローモーションだった。
カズマの後ろには、ユヅキが居た。
背後に、という表現は正しくなく、正確な説明をするなら『頭の後ろに居た』と言う感じがそうだろうか。
ユヅキは床に立っておらず、何故なら天井から逆様にぶら下がっていたのだから。
ユヅキの足元、ではなく天井には、ミイラ共が蜘蛛の巣の様に張り付き、ユヅキの足を支えている。
長い黒髪は地面を目指し、弧を描いた唇から滴る血は逆流して目に入り込んでいるが、ユヅキにそれを気にする素振りは見られない。
ユヅキの細く白い手指が、ゆっくりとカズマの首に伸びる。
愕然としたまま動けないカズマとは対照的に、ユヅキは嬉しそうに笑っていた。
「つぅかまえ、た」
骨を思わせるユヅキの指が、カズマの首に絡み付く。
動けない俺に見せ付けるように、食い込む。
命有る者の証の酸素を帯びた赤い血が、カズマの首筋を伝う。
何も出来ないカズマと俺を、ユヅキの声をした誰かが、軽やかに嘲笑った。
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