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プスプスプスプス
エンジンが中々かからない
いつもの事なのでどこか安心している…お?
ブォン
ようやく目覚めたエンジン
ギヤをバックに放り込み、アクセルを踏み込む
ギキギ
軽い震動が左前部からハンドルに伝わった
駐車場を囲むように造られた花壇の角の煉瓦を削り取ったようだ
毎朝の事なので慣れたものだが…
煉瓦の削れ具合をチラリと見ながら、マンションの敷地内から通りへ
時刻は7時ジャスト!
腕時計が嫌いな私は、持ってきた目覚まし時計を助手席に転がした
渋滞の始まりつつある幹線道路…
片手にハンドル、片手にいつものコンビニで買ったいつものパンを持った私は、いつもの通り愛車を走らせていた
ところで私は渋滞は嫌いではない
むしろ楽しんでいるとも言える
例えば渋滞の最中、周りにいる車はどれも毎朝見る車ばかり…
2台前の青い車は、次の交差点を右折するだろうし、後の車の若者は相変わらず今朝もあくびばかりしている
隣の赤い車の女性は、今日も携帯とにらめっこ…ふいに目が合って…私は慌ててタバコをくわえた
まぁ、こんな感じでどの車も知り合いなのだ
私の住むマンションの住人同様、皆ご近所さんなのだと私は思っている
そして、こんなふうに渋滞でなければ、季節による街路樹の表情の変化や街の風景、バス停に並ぶ学生達にも気付かずに、ただ通り過ぎているだけなのだ
やがて私を含めた車の波は、路線バスに追い付いた
朝の通勤時にていちばん厄介な事は、路線バスを如何にかわすかにある
しかし、今朝はいつもとちょっと違っていた
今まさにその厄介な路線バスから降りてきた姿は…?
スラリとしたスタイル
ふわりと風に舞いサラサラと流れる長い髪…そして爽やかさを纏ったかのような身のこなし
…うむむ💧
同じ方向に歩いていくその姿の、どうしても前に出たいという衝動に駆られた私は、中々進まない車の列に少々イラついていると、ふいに車の流れが早くなった
…しめた!!
私は心で叫んだ
もはや周りにいる車など視界には無かった
一気に加速してその姿の前に出る事に成功したのだ
「男じゃねーか!?」
前言撤回
やはり渋滞は嫌いだ!!
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