係長!白鳥武  其の1

3/29
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/29ページ
  プスプスプスプス エンジンが中々かからない いつもの事なのでどこか安心している…お? ブォン ようやく目覚めたエンジン ギヤをバックに放り込み、アクセルを踏み込む ギキギ 軽い震動が左前部からハンドルに伝わった 駐車場を囲むように造られた花壇の角の煉瓦を削り取ったようだ 毎朝の事なので慣れたものだが… 煉瓦の削れ具合をチラリと見ながら、マンションの敷地内から通りへ 時刻は7時ジャスト! 腕時計が嫌いな私は、持ってきた目覚まし時計を助手席に転がした 渋滞の始まりつつある幹線道路… 片手にハンドル、片手にいつものコンビニで買ったいつものパンを持った私は、いつもの通り愛車を走らせていた ところで私は渋滞は嫌いではない むしろ楽しんでいるとも言える 例えば渋滞の最中、周りにいる車はどれも毎朝見る車ばかり… 2台前の青い車は、次の交差点を右折するだろうし、後の車の若者は相変わらず今朝もあくびばかりしている 隣の赤い車の女性は、今日も携帯とにらめっこ…ふいに目が合って…私は慌ててタバコをくわえた まぁ、こんな感じでどの車も知り合いなのだ 私の住むマンションの住人同様、皆ご近所さんなのだと私は思っている そして、こんなふうに渋滞でなければ、季節による街路樹の表情の変化や街の風景、バス停に並ぶ学生達にも気付かずに、ただ通り過ぎているだけなのだ やがて私を含めた車の波は、路線バスに追い付いた 朝の通勤時にていちばん厄介な事は、路線バスを如何にかわすかにある しかし、今朝はいつもとちょっと違っていた 今まさにその厄介な路線バスから降りてきた姿は…? スラリとしたスタイル ふわりと風に舞いサラサラと流れる長い髪…そして爽やかさを纏ったかのような身のこなし …うむむ💧 同じ方向に歩いていくその姿の、どうしても前に出たいという衝動に駆られた私は、中々進まない車の列に少々イラついていると、ふいに車の流れが早くなった …しめた!! 私は心で叫んだ もはや周りにいる車など視界には無かった 一気に加速してその姿の前に出る事に成功したのだ 「男じゃねーか!?」 前言撤回 やはり渋滞は嫌いだ!!  
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!