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さて、周りの車も右に左に散って行き、ずいぶん走りやすくなってきた
街の中心を少し外れ、ぽっりぽっりと住宅が立ち並ぶ穏やかな風景を、まるで打ち壊すかのような建物が見えてくると、私の朝の小旅行は終わりを告げる
いったい誰のアイデアなんだろうか…6階建てのビルは確かに自社ビルで、多方面の分野に手を出している総合商社…ってのが表向きなんだが…
それにしてもこのデザインは、何度見ても落ち着かない
うまく言えないが、どこか人間の琴線を逆撫でするようなそんなデザインなのだ
幸いにして、私はこの建物を設計したデザイナーを知らない
もし知っていたならたぶん天将奔烈を、100回は打ち込んでいるだろう
そんな建物の前を通り過ぎてすぐのところにある路地に入る
オレンジ色の塀が続き…当然我が社の塀だ…そしてパープルカラーの門…まったく色彩感覚までどうかしている💧
その忌まわしい門から敷地内に車を滑り込ませると、従業員専用の駐車場になっている
ちょうど会社の建物の裏手に回ったわけだ
私は所定の位置に愛車を滑り込ませる…
ガシャ☆
大丈夫…毎朝の事…いつも通りに会社に到着したのだ
愛車から降り、おもむろにバンパーを見ると、その長年に渡る凹み具合が、どこかで見たような前衛芸術家の作品に近づきつつあった
…これは深いなぁ…味がある
まじまじと腕組みをして、そのバンパーの造形美を誰かに自慢したくてたまらない気持ちに浸っていると、数台の車が駐車場に現れた
キキー
バタンバタン☆
「おはようございます係長!」
部下の神崎だ
奴は何を慌てているのだ?
その割には23才と云う若さで、すでにメタボ予備軍に参加している
「おはようございます…あの?」
「やぁ!安藤くんか…
今朝も素敵なファッションだね」
これも部下の安藤静だ
知識と教養に溢れ、私が最も信頼している女子社員だ
オマケに私のタイプでもある…
「え?会社の制服ですよ?
それより遅れますよ!」
言いながら彼女は、すぐ脇の従業員専用の入口に姿を消して行った
私はこの入口から続く薄暗い通路がとても嫌なのだ
オマケにその手書きされた
[従業員専用]の文字…
…どんだけ下手くそな字なんだ?
いつか私が書き換えてやろうかと思っている
[地獄の入口]と……
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