プロローグ

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世界に見捨てられた獣が二匹、寄り添って眠る。 薄汚い、薄い毛布に包まって。 凍えながら…。 *********** 寒い、母さん。 幼い少年が、母親を求め泣いている。 優しい母は、小さな少年を抱きしめ、涙を流す。 …ごめんね、紅月さん。こんなお母さんを赦して… 母さんは、優しい人だった。敵ばかりのあの家で、独りでオレを庇っていた。 いつも哀しそうな顔をして、オレを抱きしめて慰めていた。 …大丈夫、お母さんがいるわ。貴方は何も悪くないの、悪いのはお母さんなの…赦してね… いつも赦してとつぶやいていた。 幼い頃は何故なのかわからなかった。オレが何故、親戚や使用人から白い目で見られていたのか…。 ある日、親戚のヒステリー婆が、母親を罵倒している場面を目撃するまでは。 …悍ましい、あれは兄さんにそっくりだわ。あんた、もしかして兄さんをたらしこんで生んだんじゃないの? くすくすくすくす… オレの顔が爺さんに? 立ち聞きしていた扉の前で固まった。 あほか。隔世遺伝だってあるだろ…? …知ってるのよ。あんた、兄さんの愛人の一人だって。和彦さんに嫁ぐ前は兄さんの秘書だったんでしょ?今でもお勤めしてるの?… …樹里亜叔母さま!どうか、紅月だけは!紅月にだけは言わないでください!あの子は関係ありません!出ていくのは私だけに…! …は!薄汚い女!あの餓鬼をこの東條家に育てろと?兄さんの子か和彦さんの子かも解らないのに?……それとも、別の男の子供かも知れないわね … 母さん。オレを棄てるのか?こんな家どうだっていいよ、連れて行ってくれ。オレは母さんの子供だ。父親なんかいない! …紅月は、東條家の人間です、どうか!私はどうなっても構いません! …認めるの?じゃあ、ちゃんと書類を揃えてもらって、父親は誰か調べてもらわないとね… くすくす… あの婆が笑う声が聞こえる。 腐ってんな…。どっちの子供だろうと、東條の汚ねー血が流れてるのには変わりない。 母さんは家を出た。 オレは結局、爺さんの子供だった。父親は関心もなかったのか、母さんと離婚した後すぐ、愛人の一人と結婚し。 オレは居場所を失った。
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