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否、私が殺したわけではありません。そこまで私は脳で考えられない人間ではありません。いえ、殺そうと思えば――お嬢様がそうしろと望むのならば、いくらでもあの腐った奴らの命を奪う事は、私にとって最も容易な事柄であるでしょう。
しかし、お嬢様がそれを望みませんでした。
お嬢様は、私から見ればただの人形のような人間を、塵のような人間を、家族と思い、迫害を受けながらもいつかは愛してくれると信じて、ただ、ただ愛していらっしゃいました。
全ては無駄でしたが。
今回もそれが巻き起こした副産物なのです。
お嬢様は、ただ漠然と立っているだけの自分を見ます。
立ちました。
私の前に立ちました。
そして、絞るように、心から私に言います。
「ねぇ、レオ。わ、わ、私、つい最近少しだけ、お、大人になった、の。別に、思考が良くなったと、とかじゃ、なくて。ば、馬鹿にし、しないで。私が、頭狂っている、こ、ことくら、い知ってるの」
私はお嬢様を見ながら、不謹慎かつ状況にそぐわないですが、心から美しいと思いました。
ここまで完成された『美しさ』など存在しますかね。絶対にないでしょう。
魅了された私は、赤い流血が滴る剣を離し、床に深々と刺してしまいました。絨毯が赤く染まっていきます。
しかし、お嬢様はそんな事意に介さず、私に言います。
「ねぇ、レオ。私は、さ、さっきの言葉をと、取り消し、し、ないといけな、いの。ごめんなさい。べ、別にう、嘘ではな、ないのよ。あれも真実。けど、私は、誰も愛さないし、愛されていないわけじゃなかったの」
そう言って、お嬢様は私を抱き締めました。白く細い腕で、温かいその温もりで、ただ一人を信じている目で。黒いドレスで白いマントを包み込みます。
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