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「……郷、いこうか」 淡々と義経が言った。 不自然に感じるほど、感情を圧し殺したかのような声音。 郷は涙を拭い、口を開いた。 「……はい、早く行きましょう。 叉世が寂しがりますから……」 私がいる限りこの人は決して涙を流さない。 泣きたくても、叫びたくても、決して。 少し考えればわかったはずなのに。 せめて、少しでも早く解放してあげたい。 叉世を胸に抱き、視線を義経の手元に落とす。 その手は淡々とした言葉や表情とは裏腹に強く震え続けている。 手を重ねたい。 本当は心に触れたいけれど。
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