53889人が本棚に入れています
本棚に追加
* * *
「アイツ……なんで……!?」
「そりゃ決まってる。友達だからだ」
属性が付与され、放電を繰り返す紅駆鳴を、奇妙な着物の女へと向ける。
「あの青髪はん……よう分からんなぁ」
俺とエルを見、そして更に奥を覗いてから、ナデシコは気にした風も無くそう呟く。
気を奪われる事無く状況を見渡す。フェイが冷やしてくれた頭だ……冴えない訳が無い。
「エル、カイル連れて退いてくれ」
「……嫌よ。私だってまだ闘える。アンタ、またあんな事する気?」
「あー違う。ミズキとセレナ、今気絶しそうなくらいヤベーんだ。あいつら守ってやってくれよ」
エルは一瞬躊躇う素振りを見せる。横目でそんなコイツを見てると、少し低い声が返ってきた。
「……アンタ、勝てるの? アイツ煙よ?」
「見てたよ。理解はできねーけど、仕方ない。アイツはなんでか煙に成るんだろ」
ぶっきらぼうと言われようが、割り切った。煙に成る奴を見て文句を言っても、どうなる訳でもなさそうだしな。
「それに……見ろって。アイツの左手」
「……あ」
「ほんに、適わんわぁ……傷負うやなて」
黒い着物の袖から、指を伝って血が流れる。言うまでもなく、犯人は俺だ。
「お兄やん、案外やるやない」
「俺じゃない。フェイの知識だ」
言いながら、エルに目をやる。
翡翠の吊り目が弱く見えたけど……コイツなら、大丈夫だろ。
「頼んだ」
エルは微妙に不満そうな表情。しかし分かってくれたのか、溜息に近い何かを唇から洩らした。
「……分かったわよ。……でも! もう怪我しても治らないんだからね!」
「久々に優しいな、お前」
「死んできなさい」
「それでこそお前だ」
その言葉が合図のように、俺達は向きを違えて駆け出す。
エルは倒れているカイルの元へ。
俺は……扇子を構えるナデシコへと。
最初のコメントを投稿しよう!