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──王都パレス 王立魔導軍本部──
ギルドとはまた違う、しっかりとした造りかつ、質素な建物の中の、大広間。
普段──と表現する事は決して良い事とは限らない。
それでも、有事の際には作戦連絡等の為に使われるその場所に、実力、精神共に屈強な魔法使い達が集まっていた。
一人の男の、召集の命を以て。
「すまない」
ただ耳に入るだけで気の締まる声が紡いだ言葉は、前置きの無い謝罪。
何百の部下の前で頭を下げたのは、金のウルフカットの男性。
「辞退は認められなかった。私は引き続き、この軍の総長として動く」
魔導軍総長にして、ヴァルガンド家当主。
この場を作ったのは、世界が認め、歴史に名を刻む彼だった。
「……今回私は、私情に揺らされ勝手過ぎる行動を取った。加えて、民の信頼を損なうような発言だ……許されるとは思えない」
頭を下げたまま、それでも大勢の部下に聞こえるように。
通る声を、謝罪の言葉に変えて。
「お前達には……幾千謝罪を重ねようとも、過ぎる事は無い」
軍人達は、ただただその姿を見る。
戦慄する程に強く。眩しい程に貴く。惹かれる程に優しい男の、その姿を。
「私は……。私は……! 守るべきモノに優順をつけるような男だ!」
叫ぶ。何百の部下へと。自分の信念を。
〝自分〟という、一人の人間を。
「だがそれでも! 一人でも多く助けたい! 一秒でも長い平和を守りたい! この言葉にも、嘘は無い!」
見る。自分を見る、何百の部下を。
「決めてくれ……! 今ここで、お前達自身で! こんな私に……!」
聞く。同じ志の下に集まった戦友達に。
「私情に塗れる軍の将に……命を預けられる者は居るか」
足踏み音。
足踏み、足踏み、足踏み。
足踏み、足踏み──そして、金属音。
──何を言っているのですか。
──貴方以外には着いて行かない。
──それでこそ、貴方だろう。
──だからこそ、俺達は。
──命を、預けてきたんです。
一度揺れ、静止に留まる人の列。
彼の言葉に言葉を返さず、武器を掲げるという返答をしたのは、
例外無く、全員だった。
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