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──和風都市 温泉宿『睡蓮』──
「姐御」
「あァ?」
和風宿の一室。六畳一間の部屋に、和服を着た女性が入室。
〝夜桜〟──そう名付けられた、孤児により構成された魔導剣客集団。
宿主である女将の、〝娘〟達の一人。
元々部屋に居たアヤメは、窓枠に足まで乗るように座っていた。 浴衣を緩くはだけさせ、日の照る和都を見ながら、声だけを返す。
「一通の手紙が姐御宛てに」
「手紙? ……俺宛てに手紙よこす奴なんざ心当たりが無ェな」
「それも……かなり怪しい手紙でして」
「見せてみろ」
アヤメに寄り、彼女は件の手紙を渡す。
青い封筒。
封を荒く破った女将が見たのは、青い紙に綺麗な文字でただ一文。
『娘さんは頂きました 青髪』
「……はッ」
「……姐御? どんな内容なんです?」
「なァに……」
ニヤリとアヤメは笑う。楽しそうに。少しだけ、嬉しそうに。
「親への挨拶たァ、粋な小僧みたいじゃねェか。いや、礼儀があんのか……?」
「?」
「なんにしろ、面白ェ奴だ。野郎の分際で俺の娘を惚れさせるたァな」
「ほっ、惚れっ……!? 姐御! 一体何が書いてるんですその手紙!?」
手紙に手を伸ばす娘をあしらいながら、アヤメは窓の外に目線を移し、もう一度、愉快げに笑みを滲ませた。
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