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──アテリア 某国某所──
「…………クス」
明かりの灯る、夜の街。
見下ろす景色は星を撒いたように輝き、それらより多くの人間が道を歩む。
見上げれば満点の星空。佇む月。水面に映る景色にも似たこの世界を、一人の男が見比べていた。
青い髪を、風に流して。
「今頃は……そうですねえ。宿題に追われている頃ですか」
誰が隣にいる訳でもない。けれども、話し掛けるように声を出す。
綺麗に表現するならば、月と会話をしているようだった。
「さてはて早速〝盗んだ〟〝お宝〟も、残念ながらそこまでの魅力はありませんね」
手に光る鎖を絡ませて、掌に乗るのは見事な宝石。
聞こえるのは、賑やかな街の声。夜だというのに、賑やかだ。
「昼間〝奪った〟〝お宝〟は随分と魅力的でした。……と言うのは、節操無しでしょうか」
苦笑いを浮かべ、唇に軽く触れる。
黒いローブの下に着るのは、今では〝制服〟ではなくなっていた。
「それでは、探しますか。世に隠された裏への手掛かりを……仲間の為にも、ね」
黒ローブを風に遊ばせ、青髪をなびかせて、指に挟むのは青い手紙。
「怪盗には手紙が必要らしいですね。それと、名前とキメ台詞も欲しいところです」
これから始まる当ての無い生活に不安がるどころか、余裕の表情を彼は浮かべた。
夜の街のその中で、微笑む、微笑む。
「……さて……開演です」
屋上から青い手紙を落として、フェイはその場から消えた。
その屋上を伴う建物から、何かが盗まれたような悲鳴があがるのは、もう少し後の事。
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