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夢列車。
それは世界中の人たちに夢を配るために存在している列車。
夢と言っても将来なりたいものだとか、そういうのじゃない。
夜、人が眠ったときに体験する体感現象、そっちの方の夢だ。
この夢列車、アジア方面行の蒸気機関車は一晩でアジアの人々に夢を配る。
そんな事が可能なのかって?
夢というのは不思議なもんで、一晩のうちに何年もの月日を経験したりもできる。
つまりはそんな感じで、夢の特性を使って夜を引き延ばして、何時間か長く感じさせてるらしい。
勿論、この蒸気機関車『C59型蒸気機関車』も実際にある日本のSLをモデルにしてあるだけであって、実際は夢の産物である。
じゃないと、この夢列車の20両にも及ぶ旧型客車を牽引できるはずがない。
また、夢の産物であるから、この蒸気機関車も、線路も、こんな時間まで起きている極稀な人間には見えない。
「今どの辺なんだろうなぁ……」
車窓からはまるで竜を思わせるような大きな川が流れていて、それを月明かりが照らしている。
正直、だるすぎて寝てたから良く分からない。
その時、車両のドアが音を立てて開いた。
おっ、ナイスタイミングと俺はそちらの方に聞き耳を立てる。
「えっと……まもなくバングラデシュ人民共和国の首都、ダッカに到着、ひゃう!?」
素晴らしい出落ちをありがとう。
俺は偶然座席が近かったので、立ち上がると盛大にこけた少女へと手を差し伸べる。
少女はサラサラとした茶色の髪で、くりくりとした目に微かな涙を浮かべながら、頭を摩っている。
服は青い車掌の服を着ていた。
「大丈夫か? エリナ」
「うん……ごめんね? ドジばっかで……」
俺の手を借りて立ち上がり、何故か俺へと謝る少女の名は橘エリナ。
この夢列車の車掌を務めていて、俺の幼馴染でもある。
昔からそうだが……こいつのドジっぷりは治りそうもない。
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