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彼は言った。
「君はだれだい?」
「僕は――だ」
あれ、僕は何と答えたのだっただろう。
「そうかい。君はなぜ、ここにいるんだい?」
「わからない。ここはどこなの?」
「ここは楽園さ。生活に困ることのない、素敵なところ。今は君と僕しかいない。君が来る前は、僕しかいなかった」
「地獄のような楽園だね」
「実際、地獄なんだ、ここは」
「君はどうしてここにいるの?」
答えはもう知っているのに、僕は何となく尋ねた。
「僕は、ここに閉じ込められてしまったんだ」
「出られないの?」
「僕はね」
僕は出ていけるのだろうか。
「君は出ていけるよ。出ていけばどうなるのかは知らないけれど」
「どうしたら出られるの?」
単純な興味で僕は尋ねた。
「簡単だよ。出たいと念じればいいんだ」
「それだけ?」
――瞬間、僕は天国の地獄からいなくなっていた。
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