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「次の実験体は?」
「次は大丈夫でしょうかね」
「まぁ、失敗したら破棄するまでですよ」
嫌な記憶程、忘れたい記憶程
脳裏にしっかりと刻まれている
「っ…ハァハァ…」
荒い呼吸を落ち着け、自分の手を見つめる
自由を手にしたのに……
心はまだ重い…
桜月が貸してくれた『着物』という物を着てみる
着る方法は昨日、桜月に習った
こういうものは『着付け』と言うらしいけど
『姿鏡』というもので再度、自分の容姿を確かめる
あの時の背中の激痛は一体、何だったのだろう……
不意によぎった疑問を、必死に振り払い、私は部屋を出た
「わぁ……」
出た瞬間、心地よい風と共に散る花びら
思わず声が出る
桜月は『桜』だと言っていた
桜月の家には桜や様々な花が咲き誇っている
「おはよう、桜月」
「起きたか、夢羽
ゆっくり眠れたか?」
桜月は昨日と変わらず、全く同じポーズで煙管を吸っていた
『長椅子』にこのポーズでいるのが、お気に入りだと桜月が言っていた
「うん」
少し遅れて返事をする
「そうか、なら良かった
とりあえず飯にするか」
私は頷いた
こんなに幸せなのだから、あの頃の日々は早く忘れたい
と私は密かに願った
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