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その女の住居は、都心の高級住宅街に建つ小洒落たマンションの一室にあった。
半ば都市伝説と化している割には、存外普通の生活感を感じさせるそれに、聞き手であった男は感心さえした程である。
──いや、ひょっとすると、金持ちの色狂いな夫人が始めた遊びがこんな形で広まったのだろうか。
それならばそれで、ある意味良いのだが──等とつらつら考えながら、男はその部屋のインターホンを押す。
すると若干の間があってから、『開いています』と返答があった。ここまでは情報の出元である友人の証言と一致している。
愛らしい女性の声を表現する際、よく『鈴のよう』だと言うが、恐らく彼女のものであろうそれは、特別高い訳ではない。
寧ろ女性としては低い部類で、人を惑わすようなしっとりとした色気を孕んでいた。
まるで泥棒のようにそろそろと扉を開け、後ろ手に鍵をかけると、これから良からぬ事をするという背徳感が男を襲う。
その時点では、昂揚と言うよりも罪悪を強く感じて、男は居たたまれない気分になった。
「貴方が今日の『特別な方』ですね」
が、所詮男は欲望に正直な生き物である。
その女を見た瞬間、身体が熱を帯びていくのが解った。
黄色人種にしてはひどく色白で、触り心地の良さそうな肌、長い睫毛に縁取られた大きな瞳、鼻筋の通った顔立ち、赤銅のような色合いの光沢が印象的な長い髪は腰まで届いている。
なるほど、『絶世の美女』と呼ばれるのも頷ける。これは確かに魅力的だと誰もが認めるであろう容姿をしている女性が、確かにそこに立っていた。
「そんなに堅くならないで、どうぞ奥へ」
男は既にぼんやりとした頭で靴を脱ぎ、彼女に導かれるまま奥へ進んだ。
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