プロローグ

2/3
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
町外れの丘の上に大きな桜の木がある。 俺はその桜が満開になると木の下で本を読むのが好きだった。 この木はちょっと"いわくつき"で皆近寄らなかった。 別名"幽霊桜"や"狂わせ桜"と呼ばれている。 俺はそうゆう霊的な者とか気にしないから一人で読書できる特等席が出来て嬉しい。 一年に一度、ほんの数日間だけの楽しみだ。 今日もいつも通りに本を広げた。 いや、いつも通りじゃなかった。 同じ木の下から歌声が聞こえた。 本を閉じて見てみるととても綺麗な少女が佇んでいた。 桜吹雪に靡く髪。 清楚な白いワンピース。 天使のような歌声。 俺は暫く見とれていた。 「あの・・・ごめんなさい。読書の邪魔をしてしまって。 五月蝿かったですよね。」 申し訳なさそうに眉をしかめる。 「あぁ、気にすんなよ。 邪魔じゃねぇし。歌、上手いじゃん。」 凛としていて今にも消えてしまいそうな細い声に俺は照れながら答えた。 少女は嬉しそうに笑った。 「ありがとう。私は篠崎柚希といいます。 貴方のお名前は?」 どうしてだろう。何かドキドキしてる。 「東條咲夜。高校二年生。」 柚希さんは少し切なそうな表情になった。 「高校二年生なのね。私も年齢で言うと高校二年生よ。」 年齢で言うと? 高校に行っていないのだろうか? むしろ大人っぽくて高校には見えなくて驚いた。 「あの、高校は・・・?」 困ったように笑いながら少女は小さな声で答える。 「ちょっと事情があって高校には行っていないの。」 俺はしまった、と思った。 聞いてはいけないことを聞いてしまった気がした。 「悪ぃ、俺っ失礼なことをー。」 静かに首を左右に振る。 「いいのよ。気にしないで。あ、そうだお名前、何て呼んだらいいですか?」 重くなりそうな空気を頑張って変えようとしているのがわかった。 「皆に咲って呼ばれてるから、咲でいい。 俺は何て呼べば?」 少女はニコッと笑った。 「柚って呼んで下さい」 こんな風にあだ名で呼び合うのはなんだかドキドキした。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!