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(―――――あ、)
偶然通りかかったそこは、自販機があった名残はあるものの、その場所にあるべき物はなく、代わりに自販機を連れ去った犯人の物らしきサングラスが、申し訳なさそうに場所を占領していた。
彼が平和島静雄と遭遇し、自販機を投げつけられたのは昨夜のことである。
人通りも少なく細い路地だった為、咄嗟に全身から力を抜いて倒れ込みながら受け身を取り、自販機との激突は回避した。その際、地面に打ち付けた右腕に少し傷は残ったものの、これくらいは日常茶飯事なので気にしない。
(思い出したらむしゃくしゃしてきたな…)
昨夜の出来事を考えている間、ずっと睨み付けていたサングラスに、自身の色素の薄い生白い手を伸ばした。そのとき、手首についた擦り傷が目に入り、余計に腹が立った。自分の目線まで持ち上げたそれをまじまじと観察してみたが、これといった傷もなく、新品同様とまではいかないがそれなりに新しそうだった。
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