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「知……い?」
目の前の人間は、いまだ見下してくる女は、それはもう嬉々とした表情を浮かべる。
膝を折り目線を低くするも、それでも膝と手をついた僕より少し高い。
「…、知り……?」
目線が低くなったからなのか、女が何かを言っている事に気付いた。
勿論、耳、聴覚、更には三半規管まで正常に働いていない今、只のノイズにしか聞こえないのだが。
「…」
『聞こえない』と言おうとして気付いた。
声が出ないのだ。
喉が渇いて乾燥し口の中の水分がこれでもかと枯渇しきった状態。
喉に手を当て、もう一度言う。
「…」
やはり、出ない。
さっきの無理矢理出した声が不味かったのか。
一度気付いた渇きと飢えは、もう無視することが出来ない。
喉が乾いた。水が、飲みたい。
冷たくても、熱くてもいい。水が、水分が飲みたい。
今なら海の水だって飲んだっていい。死なない程度に。
何処かに、水は、水分は、液体は。
「ねえ、聞こえてる?」
ハッキリと声が聞こえた。
目の前の女からだ。未だに膝を折り、視線を低くし、見下し続ける女からだ。
あぁ、あるじゃないか。水分が。
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