さよなら

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変わってしまうくらいなら、止まってしまいたい。 裕一と同じ世界を生きたい。 私の足は、裕一の立つ交差点へと向かっていた。 後ろで翔が叫んでいる。通行人たちの悲鳴も聞こえる。車のクラスション。嫌に耳障りだな。 だけど全て、遠くなっていった。 目の前に広がるのは、闇。 裕一はここにいるのかな。暗くて何も見えない。寂しくて、怖い。 「……百合」 聞こえたのは確かに裕一の声だった。久しぶりに聞いた彼の声は、あの日と全く変わっていない。 「裕一どこにいるの?」 「今のお前の前には、姿現せられないよ」 「どうして?」 近くに、確かに近くにいるのに、会うことができない。もう一度あの温もりを感じられない。 「百合はまだ生きてる」 「嘘……私、裕一と同じ世界に来たんだよ」 「馬鹿野郎!」 いきなりの怒声に驚く。
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