さよなら

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百合の花束をそっと置いて、手を合わせる。翔も後ろで目をつむっていた。 「裕一……時間かかっちゃってごめんね。だけどようやく幸せになりました。夫は翔、ヤキモチ妬かないでね。息子は文也っていうよ。花に裕一って名付けるかと思ったって言われたけど、今時そんなベタなことしないよね」 文也をぎゅっと抱きしめる。我慢していたけど、涙が零れた。翔の掌が肩にそっとのる。 「約束果たしにきたよ。ちゃんとお別れしようって言ったもんね。あの日と違ってこれは本当のお別れ。私はこれからも進み続けるよ。寂しくなったら百合の花を見て。私は前に進むけど、ちゃんとあなたを覚えてる。忘れないでね」 そっと立ち上がると、交差点の真ん中であの日のように手をふる裕一が見えた。 「さよなら」 ちゃんと言えた。涙は流してしまったけど、今日だけは許してくれるよね。 『さよなら。幸せにな』 最後に、裕一がそう微笑んだ気がした。 end
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