瞳を閉じて

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「ただいまぁ」 そう言いながらリビングに入ると、母さんがキッチンから顔を出す。 「お帰り。もうすぐ夕飯できるから、お姉ちゃん呼んできてくれる?」 「はぁい」 全く。帰ってきたばっかりのお疲れの娘を、そんなにコキ使うんじゃないよ。 心の中で文句を言い、2階の自分の部屋にいるであろう姉を呼びに行こうと足を動かす。 すると、母さんが思い出したかのように「あ!」と呟いた。 「今日、誠君来てるからね。ちゃんと挨拶しなさいよ」 私の足は止まっていた。 なにも気づかず、母さんはそのまま料理の支度を再開する。 ……誠君が、来てるんだ。 私の足取りは重い。 だけど母さんの言い付けを無視するなんてできないので、沈んだ気持ちのまま階段を上った。 お姉ちゃんの部屋の前で、一度ゆっくり深呼吸をする。 そして意を決して、ドアをノックした。
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