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「和馬君?」
いきなり立ち止まった俺に、不思議そうに久美が言った。こんな状況だが、久美に名前を呼んでもらえて嬉しい。
だが、喜んでいる場合ではない。この後何を言われるか……。
「先生は?」
久美の質問に首を振った。訳が分からないというように、眉間にシワをよせる彼女。
俺は意を決する。
「あれ、嘘」
重たい心情とは裏腹に、軽く出る言葉。これでは相手に怒って下さいと言っているようなものだ。
「は?どういうこと?」
久々に久美をこんなに間近で見る。これがこんな修羅場じゃなければどれだけ嬉しかったか。
「いや……なんかさ、お前がいっちょ前に告白されそうだったから、なんか邪魔してやりたくなったんだよ」
違う。こんなことがいいたいわけじゃないのに、変なプライドが邪魔して本音が言えない。
本音をいえば、俺が久美を好きだとばれてしまう。
それをごまかすことに必死で、笑いながらヘラヘラした態度になる。
久美の怒りは一目瞭然だった。
「和馬君……最低だね」
鋭い瞳で睨まれて、口をつぐむ。素直になれないもどかしさから、イライラしてきた。
「そこまで言うことじゃねえだろ」
売り言葉に買い言葉という奴だ。黙っておけばいいものの、イライラが俺を逆上させる。
「そこまでのことよ!自分がどれ程最低なことしたか分かってるの!?」
久美は俺の反論に怯むことなく挑んでくる。もう止められなかった。女に口で負かされるなんて男が廃る。
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