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「気のせいだろ」
「ふぅん。どうしても隠すってんなら、久美ちゃん本人に聞いてもいいんだぞ?」
俺がいつまでもごまかし続けていると、奏はついに究極論を打ち立てた。
それは困る。
「やめろって!」
「焦るってことはやっぱりな。久美ちゃーん!」
奏は確信したような表情になり、いきなり大きな声で久美の名を呼んだ。俺の制止は無駄に終わる。
「……え?」
久美が戸惑ったように返事をし、俺とは目を合わせないようにこちらを見た。
なにも知らない奏は、のんきに笑っている。
「いい加減にしろよ。お前には関係ないだろ」
気付くと、自分でもびっくりするような低い声が出ていた。手は奏の肩を掴み、久美の元へ行こうとするのを阻止している。
奏は目を真ん丸にして驚いていた。
俺がここまで本気で怒るなんて思わなかったんだろう。
俺にだって、関わって欲しくないことがあるんだ。それが例え、奏だとしても。
「あ……あぁ。ごめん」
謝ってほしいわけではなかったので、申し訳なさそうな奏を見てこっちまで申し訳なくなる。
「いや、いいよ」
そして静かに席に戻った。
久美の顔は見ることができなかった。
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