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それから何事もなく1日が進んで……くれれば良かったのだが、日常とは違うことが起きていた。
休み時間の度に、坂下が教室にやってくるのだ。
もちろん久美目当てのよう。
俺に見せつけるように、わざと廊下に出ずに教室で話している。
そんな様子をなるべく見ないようにしているのだが、たまに聞こえてくる久美の笑い声で、胸が締め付けられた。
「……和馬。あれ放っておいていいのかよ」
そんな俺の様子を見兼ねた奏が言った。
「何を?」
あえてとぼけてみせる俺。大きなため息が聞こえた。奏は呆れ顔だ。
「お前がそれでいいなら、何も言わねえけどな」
らしくない奏の言葉に違和感を感じた。きっと今朝のことがあるから、いつもみたいに推せないのだろう。
俺は返事をせずに、ただ違うことに意識を集中させようと沈黙していた。
気を抜くと自然に目は久美を追いかけてしまう。
集中しなくては。気は抜けない。
神経を張り巡らせて、必死に久美から遠ざかろうとした。
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