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「おい」
奏が目で訴えていた。
言われなくても強い眼差しから、「行け」という言葉が伝わってくる。だけど俺は気づかないフリをした。
「さ、帰るか」
平然と、いや、いつもより元気なくらいで返事をする。奏は眉間にシワをよせたが、何も言わなかった。
「坂下もよくやるよなぁ」
下駄箱についたとき、そんな声が聞こえてきた。俺たちはぴくりと反応する。
声の主は、坂下と同級生の先輩のようだ。
「さっきの1年で何人目の彼女だよ」
「4人目くらいじゃないか?」
「ははっ。さすが坂下。イケメンはやることが違うわ」
先輩たちは笑いながら去っていく。俺の思考は完全にストップしていた。
今のどういうことだ?
久美は4人目の彼女って……。
「やられたな、久美ちゃん」
先に言葉を発したのは奏だった。笑いながら去っていく先輩たちを、蔑んだ目で見ている。
「遊ばれてるってことだろ?」
横目で俺を見る。
言葉が出てこなかった。坂下の野郎、真剣なフリして久美をもて遊ぼうとしているなんて。
許せない。
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